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気候変動と食糧生産とモデル・シミュレーション

最近,Yahooのネットニュースの科学のところで,気候変動と食糧に関する記事を目にするようになった。

ちなみに,食糧と食料の違いだが,食料は食べ物全般,食糧は食用に供される穀物,米,麦等の主食を指す。

世界的に有名な科学誌に,気候変動と食糧にかかわる論文が出ているようである。

Smith, M.R., & Myers, S.S. (2018). Impact of anthropogenic CO2 emissions on global human nutrition. Nature Climate Change, 8, 834-839

Zhu, C., Kobayashi, K., Loladze, I., Zhu, J., Jiang, Q., Xu, X., Liu, G., Seneweera, S., Ebi, K.L., & Drewnowski, A. (2018). Carbon dioxide (CO2) levels this century will alter the protein, micronutrients, and vitamin content of rice grains with potential health consequences for the poorest rice-dependent countries. Science Advances, 4, eaaq1012

これらでは,CO2の濃度が上昇することで,コメ粒をはじめとした子実内の栄養バランスが変化し,タンパクやビタミンなどの割合が減少するということを報告している。

栄養素としてみた場合,人間は,熱量素 (炭水化物,脂肪,蛋白質など) ,保全素 (蛋白質,無機質,ビタミンなど) としても8割近くを穀類に依存している。

よって,CO2の濃度の上昇による,タンパクやビタミンなどの低下によって,深刻な栄養不足が発生するという論理である。

ここで面白いのが,少し前の研究では,CO2の上昇は食糧生産量を増加させるというものが多かったところである。

つまり,「量」の変化だけでなく「質」の変化も重要視されるようになってきているということである。

もう1つ面白い点は,CO2濃度と食糧を議論している点で,「量」の変化,「質」の変化ともに光合成に関係しているということである。

CO2濃度が上昇し,光合成に伴う同化産物の生産量(乾物重,炭水化物)が上昇し,「量」が増える。そして,子実をみると,相対的に含まれる同化産物の割合が多くなるため,タンパクやビタミンなどの成分の「割合」が減少する。

モデルやシミュレーションでは,今と食生活が変化しない,食べる量の変化もないという計算になるため,「計算上」では栄養状態が悪くなる。

だが,普通の感覚で考えると栄養状態の悪化は起こらない可能性が高いように思える。

基本的に,穀物の栄養素のバランスが変化し,その影響を受けるとされている地域は,インドなどのモンスーンアジアの国々である。

それらの国々では,基本的に食糧の「量」が不足しているわけである。

CO2濃度が高くなれば,量が上昇し,食べられる量も多くなる。すると,子実内の割合が変化しても,食べる量が変化すれば,摂取するタンパクやビタミンなどの「量」は,モデルやシミュレーションで計算されるものにはならない。

実際,日本がいいサンプルになるのではないか。

モンスーンアジアに位置する日本における,戦後の貧困な時代から現在までの変化は非常に参考になるはずだ。

コメに関しては,その食べる量自体が経済発展と食の多様化に伴い減少しているが,コメ自体は昔よりも確実に美味しくなってきているはずだ。

つまり,コメの低タンパク化が進んでいる訳であるが,栄養不足は発生していない。

食の多様化によって,別の形で栄養素を補ったり,何よりも貧困な時代の日本と比較すると「量」の問題が改善されている。

「食」は人間の3大欲求であり,モデルやシミュレーションで推し量れるほど,簡単ではない。


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